予防法務とは −−経営と法律のかかわりの中で−−

 小生は法律の専門家ではありません。組合の顧問弁護士である太陽綜合法律事務所の近藤弦之介先生(岡山大学法科大学院教授)に予防法務という考え方を教えていただき、組合と企業経営に役立てたいと考え、2012/08/25の組合での研修会で先生にご講義いただいた内容等の一部をご紹介しようというものです。(文責 当組合)

 予防法務とは、日本が法治国家であることから、法律を企業目的に役立てる目的で活用することと、法律で禁止されていることを知らずに犯して罰則を受けないように、事前に予防するために法律の知識を活用することです。

 企業として注意が必要な法律には、通常でも会社法・商法・税法・民法・労働関係法・消防法・環境基本法と環境関係法・廃棄物処理法などがあり、さらに海外との取引が関係すると外国法も必要になります。

 会社が関係する法律上の処罰には、違法認定による行政上の営業停止や、各種補助金の停止や返還、強制捜査段階での事実上の営業停止状態の発生など様々なものがあり、決して軽視できるものではありません。

 経営者の場合には、法律上の処罰が下されると役員であることができなくなる場合も発生することがあります。労働関係法違反を労働基準監督署に認定されると、雇用調整助成金などの厚生労働省所管の補助金などが全て支給要件から外されることもあり、企業の景況によってはお金の問題が発生することもあり得ます。

 各種の補助金には、支給できない要件として「労働関係法令の違反を行っていることによりこの奨励金を支給することが適切でないものと認められる場合」という記載があります。

 特に、重大な労災事故が発生すると、企業側としては違反していなかったつもりでも、法律上で事業者である企業は「安全配慮義務として、危険防止のため万全の安全対策を講じ従業員の安全を確保する義務がある」とされているために、安全配慮義務違反に問われ、ほぼ確実に書類送検されます。書類送検の段階で労働安全衛生法違反が認定されたことになるため、被災従業員への補償と、各種補助金の支給停止が重なってしまい、企業は資金繰り上も重大な事態を迎える可能性があります。

 外国人研修生を利用する場合は、出入国管理及び難民認定法に関して、会社の違反と取り扱い業者の違反の2つの可能性がありますが、取り扱い業者が違反を認定されると、研修生を帰国させるか別の取り扱い業者に移管する必要が発生することと、次の研修生の受入が同じ業者からはできなくなる問題があります。会社が違反を認定されると、その日から5年間研修生の受入ができなくなり、研修生比率の大きな事業所では事業継続が困難になることもあります。また、取り扱い業者が法務省から灰色で見られている場合は、研修生の入国申請が理由不明のままに、放置されるケースがあり、企業運営上は必要な従業員の調達で重大な問題となることがあります。

 暴対法も、識者によると知らないうちに認定されてしまうケースがあるようで、金融機関に通知されると融資が受けられなくなるリスクがあるため、細心の注意が必要となるようです。

 法律は、専門分野なので、企業の場合は顧問弁護士がおられると電話一本でいろいろな相談が出来ます。もし顧問弁護士がいないと、自分で勉強するか、弁護士を紹介してもらい有料で相談することになります。面倒なので法律のチェックをすることなく、自分で判断することになります。でも、それは大変危険なことかもしれません。

 裁判になると原告と被告とが同じ事実に対して全く異なる立場と法律の適用を主張し争うことで分かるように、専門家でさえ見解が分かれることがあります。法律の専門家でないものが、素人判断や法律を自分で読んで勝手に解釈することが、有効であるとは限りません。法律の適用の程度や限界の判断は大変難しいもので、現実の様々な局面でどのような事情や過去の判例や適用事例が妥当かどうかを判断することは、素人には不可能に近いのだそうです。顧問弁護士を持つ事で、電話一本ですぐに相談できることが、法曹界の常識を確認し、トラブルを未然に防止する上で最も効果があるということです。

 当組合では、弁護士事務所と顧問契約を結び、組合と組合員が電話で無料で法律相談を行うことができるようにしています。また、事件や裁判の場合には、通常より安い価格で弁護に当っていただけることになります。ただし、利害相反関係が発生する場合にはサービスを受けられなくなる事があり注意が必要です。

労働関係法

 企業の資産は、人・もの・金・情報などといわれます。企業にいくら「もの」や「お金」や「情報」があっても、人がいなければそれらを生かすことが出来ません。人は、企業にとって最も重要で基礎になる資産です。企業が人を利用するための基本的なルールが、労働関係法ということになります。

 労働関係法には、人を雇ったり解雇する仕方に関係する労働契約法、働き方を規定する労働基準法と、衛生的かつ安全に働くための労働安全衛生法などがあります。それ以外にも雇用保険や年金や健康保険、働く場所の安全に関係する消防法など沢山の法律が制定されています。

 

労働契約法

 わが国では、長い間労働契約に関する法律が制定されてこなかったそうです。まさしく国会という立法機関の不作為ですね。このために穴を埋めるものが必要となり、裁判所が民法などを活用して判例を積み重ねることで、事実上の法律の役割を果たしてきたそうです。

 この問題を解消するために、労働契約法(平成19年法律第128号)が平成20年3月1日から施行され、労働契約についての基本的なルールがわかりやすい形で明らかにされました。厚生労働省作成の労働契約法のポイントが、概要を勉強するには、まずは最適です。

 労働契約法では、就業規則が重要な役割を与えられています。就業規則が事実上の雇用契約の内容そのものになるのと、規則に定めのないことはさせることができないことになるので、よく検討して作成し、周知させることが大切です。

 労働契約法では、社員の身分は雇用期間が大きな役割を与えられています。期間の定めがない契約は、通常正社員といわれるもので、定年まで勤められるということになります。

 期間の定めがある場合は有期労働契約となりますが、契約の更新に関して様々な重要規定があり、下記に紹介する法改正により、更新を重ね一定の年数を経過すると期間の定めのない社員へ移行することになります。民主党政権下での労働側の立場と判例を反映した労働者側に有利な重要な規定が多くなっています。無関心や不注意でこの問題を扱うと、企業にとって意図しない労働問題に巻き込まれる可能性があります。

改正労働契約法  −−有期労働契約のルール整備−−

 民主党は2009年8月の衆院総選挙で圧勝。鳩山由紀夫・民主党代表が第93代首相に就任し、社民党、国民新党との連立政権を樹立、政権交代を果たした。

 2012年8月10日に、民主党政権下で、労働側に有利な内容で、労働契約法が改正され有期労働契約の新しいルールができました。以下に、厚生労働省のHPから改正のポイントをご紹介します。

   有期労働契約(※)の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、働く方が安心して働き続けることができるようにするため、労働契約法が改正され、有期労働契約の適正な利用のためのルールが整備されました。

 ※有期労働契約・・・1年契約、6か月契約など契約期間の定めのある労働契約のことをいいます。有期労働契約であれば、パート、アルバイト、契約社員、嘱託など職場での呼称にかかわらず、対象となります。

 改正労働契約法は、公布の日(平成24年8月10日)から起算して1年以内の政令で定める日に施行されます(雇止め法理の制定法化は公布の日から施行されます)。  このページでは、改正労働契約法についての情報を順次掲載していきます。

 

 労働契約法 【改正法のポイント】厚生労働省HPより引用紹介

1.有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
 有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合(※1)は、労働者の申込みにより、無期労働契約(※2)に転換させる仕組みを導入する。
 (※1) 原則として、6か月以上の空白期間(クーリング期間)があるときは、前の契約期間を通算しない。
 (※2) 別段の定めがない限り、従前と同一の労働条件。

2.「雇止め法理」の法定化
 雇止め法理(判例法理)(※)を制定法化する。
(※)有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、または有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、合理的期待が認められる場合には、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、有期労働契約が更新(締結)されたとみなす。

3.期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
 有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、不合理と認められるものであってはならないものとする。

(施行期日:2については公布日(平成24年8月10日)。
        1、3については公布の日から起算して1年以内の政令で定める日。)

就業規則の意味

 労働契約法では、契約自由の原則による雇用契約の部分と、就業規則により自動的に成立する雇用契約内容とがあります。個々の労働契約で定めがない部分は、就業規則が適用されることになります。

 就業規則に定めのないことは会社側は社員に業務として指示することができないので、例えば業務上の必要により残業を指示することができる規定がないと、上司は残業を指示することができず、個々の従業員の好意に期待してお願いするしかないことになります。

 近年、精神的な症状での労働問題が多発しています。本人の外観では判断できないことと、医師が安易にうつ病などの診断を下すことが多いと言われておりますが、業務上の影響と診断されると労災扱いとなります。自分にとって都合の良い医師を見つけて診断書をもらうことが横行しているとの指摘もあります。このような問題への対応として、就業規則に会社側指定の大病院や医師の診察を受けさせる規定が重要になっているそうです。パワハラ(パワーハラスメント)も、上司からのみならず、同僚から、さらには部下からのそれもある世の中になって、企業としては対策しなければならないことが増えていますね。

 このように、就業規則の制定と有効性が認められることは、極めて重要になっています。内容をよく検討し、従業員代表の意見をつけて、労働基準監督署に届け出て、周知義務を満たしていることが必要です。

 従業員を代表するものの意見については、必ずしも同意でなくても良いが、会社側が勝手に作って知らないうちに押し付けたものでないことになる点が重要だそうです。

  就業規則が有効であれば、個々にその都度細かく説明しなくても、全ての従業員に対して、有効に適用されることになります。

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